地道な活動を重ね、認知度が高まるとともに、2015年のシーズンからアルテアを導入する農家も出始めていた。しかし計画通りに進みかけていた矢先の2015年7月、思わぬ報告が飛び込んできた。アルテアを使い始めた農家から「稲が育たない」というクレームが出ているというのだ。
農薬、特に新薬の場合、実際の使用方法や、条件の微妙な違いにより、生育阻害は起こりえる事態ではある。とはいえ、導入初年度に大きな問題となれば、アルテアの販売計画が狂ってしまう。「正直、かなり焦りました」と海外部の小林はいう。
直ちに海外部のスタッフが現地に飛んで状況を確認し、研究所からも小林が馳せ参じた。
彼らは、水田を実地調査し、さらに気象状況や土壌のデータも収集した。それらを総合して分析したところ、原因が分かった。「たまたま数十年に1度の低温に見舞われたために、稲が根を張るのが遅れていたのです。根が十分に育たないうちにアルテアが投入された結果、薬が稲に想定以上に強く作用してしまい、生育阻害が起こったのです」と研究所の小林は説明する。
問題発生後、直ちに石井を中心とする対策チームが、該当農家に対する動きを始めていた。研究チームによって明らかになった原因と今後の対策を説明し、救済措置として成長促進のための資材提供などを申し出た。
「経営陣が素早く英断してくれたおかげで、被害を受けた農家に対して手厚い対応を、時間をかけずに行うことができました。これにより農家が納得してくれただけでなく、結果的には農家に対する当社の真摯な姿勢が口コミで広がっていったのです」と小林哲也は思わぬ成果に言及する。
生育阻害の問題は、根がしっかり張ったことを確認してからアルテアを使うことで解消される。使い方の周知徹底を図ったおかげで、翌年には問題は一切起こらなかった。
研究所の小林は言う。「2015年、問題が起こったときに出向いた農家では、ものすごい剣幕で怒鳴られました。私は中国語がわかりませんが、怒りは十分に伝わりました。ところが、翌年再び同じ農家に状況確認に行くと、笑顔で迎えてくれたのです」ユーザーである農家の笑顔は、研究者にとって、何よりの報いとなったのである。
見学会を開催し、『アルテア』の効果を農家の方々に見てもらう。支持層が少しずつ広がっていく。