日産化学は、半導体材料メーカーとして、高い世界シェアを占める製品を持っている。しかし、変化の激しい半導体業界で生き残るためには絶え間ない研究開発が必要だ。その一つの取り組みとして、世界の半導体業界をリードする研究機関「IMEC(Interuniversity Micro-Electronics Centre)」へ継続的に研究員を派遣している。田村は、今まさにIMECで活動している社員。ベルギーの地で何に取り組み、何を思うのだろうか。
PROFILE
田村 護
材料科学研究所 半導体材料研究部
IMEC出向
高分子系 修士 2007年入社
半導体のイノベーションが起こる現場で。
ベルギーは、フランスとドイツという大国に挟まれた小さな国だ。しかし、EUの主要機関の多くが置かれる政治の中心地であり、金融や工業でも実力ある企業や機関が少なくない。
半導体研究の世界的な中心地もベルギーにある。それがIMECだ。オープン・イノベーション型の国際研究機関で、半導体メーカー、装置メーカー、材料メーカーなど数百社から派遣された研究者が集まっている。もちろん日本メーカーも参画しており、数十人規模で研究者を派遣している大きな半導体メーカーもある。
「日産化学から来ているのは、私一人なんですよ」と話すのは田村。所属は材料科学研究所の半導体材料研究部。出向という形でIMECに来ている。「はじめはたいへんでした。海外メーカーと仕事をした経験はあったのですが、一人で研究機関に滞在するとなると、必要な英語のレベルが違いますからね」と苦笑する。だが、臆しているヒマなどなかった。
「日本の半導体材料研究部から持ってきたテーマについて、こちらの研究者に、共同研究をしませんか、と持ちかけて実現していくんです。テーマの一つは、リソグラフィによる微細加工技術をさらに進化させる材料。もう一つは、パッケージ分野の新材料。メンバーを募ってミーティングを開き、クリーンルームに入って実験をして、またミーティングを開いて、という日々を送っています」
これからの世の中はIoT、AIが変えていく、と言われる。だが、それには半導体のさらなるイノベーションが不可欠だ。半導体プロセスが次世代へと進化するときに、どう食い込めるか。田村はいう。「IMECで他のメーカーと共同研究を行い、私たちの材料の性能が実証されれば、次世代の半導体プロセスに採用される可能性も出てきますから」
材料メーカーとして、2つのテーマに挑む理由。
田村が持ってきた2つのテーマ。リソグラフィによる微細加工技術をさらに進化させる材料と、パッケージ分野の新材料。それは、このような経緯で生まれた。
日産化学の半導体分野におけるコア製品は、反射防止膜だ。半導体の集積度の向上を牽引してきたリソグラフィによる微細加工技術の進化に欠かせない材料で、日産化学は世界的にも高いシェアを持っている。田村もそのメインストリームで研究開発を続けていた。だが、ある時期からリソグラフィ分野以外で新しい製品を生み出そう、という気運が高まった。いくら高いシェアを持っていても、それに安住していては、未来はない。田村はそれを担当して取り組み始める。
「新たなテーマを手探りで見つけるところからスタートしました。着目したのはパッケージ分野。微細化にはいずれ限界が来るという説もある中で、半導体のさらなる進化に向けて、大きな期待が寄せられている分野です。
たとえば近年注目されているシリコンウエハを積層させるプロセスでは、接着剤のような役割を果たす材料が必要。そうした新しい材料を、最先端の分野に提供できないかと研究をしてきました」メインストリームの技術を熟知しながら、新しい分野の研究も進めている。そんな田村を見て、上司は“今IMECへ派遣するのにちょうどいい”と思ったのかもしれない。田村は、IMEC行きを打診され、2つのテーマを持ってベルギーへやって来たというわけだ。
日産化学が、世界の半導体業界で、できることとは。
IMECには、世界70カ国以上から研究者が集まって、最先端の研究に取り組んでいる。セミナーや発表会なども頻繁に開かれている。「研究環境・設備は本当に素晴らしい。まさに“ない研究設備はない”と言えるほど。クリーンルームは世界最大規模だろうと思います。本当に刺激的な環境です」と田村はいう。
「とは言っても、待っているだけでは何も始まりません。“こういうミーティングをしませんか”と自ら発信し、その意義をアピールして賛同を得られれば、初めて、一緒に動いてくれる人が出てくる。日本にいるときよりも、個の研究者としての発信力が問われますね」
世界の半導体業界の中で、IMECの存在感がますます高まっていると言われる。
「それは、半導体の開発規模が巨大化している中で、たとえIntelやSamsungといった世界的大企業でも、1社の社内リソースだけで成果を挙げるのが難しい時代になっているからだと思うのです。つまり、材料や設備も一体となってイノベーションを起こしていく必要がある。そんな中、材料メーカーである日産化学だからこそ、できることがあるはずです」
たったひとりで乗り込み、限られた期間のうちに、成果を出そうとする。そこには、大きなプレッシャーとやりがいが同居している。「ここでチャレンジをすれば、その数だけ、視野が広がり、力がつくと思う。私なりの成果をつかみたいと考えています」と田村はいう。
COLUMN
オープンイノベーション型研究機関であるIMECでは、普段は顧客になったりライバルになったりするメーカーとも、オープンかつフラットに話ができる。「その環境を生かせるかどうかは自分次第。まさに個の発信力が問われます」