My Never-ending Chemistory

世界を驚かせるような革新的な発明は、どこから生まれてくるのか。いろいろなケースがあるが、その一つが、「異質な分野の技術がハイブリッドするところ」であるのは間違いないだろう。T.N.は、自らのバックボーンを活かしながらも、それにとらわれず、日産化学が持つ無機・有機の技術を高度に組み合わせるハイブリッド材料に取り組んでいる。果たしてT.N.は、そこから画期的な新材料を創出することができるのだろうか。

振り返ってみると私には、何か新しいものを生み出したいという漠然とした思いで、自らの好奇心に従って生きてきたところがある。結果として私は、少し普通の研究者とは異なる道を歩んでいるかもしれない。

高専では、機械工学を学んでいた。熱履歴を受けたセラミック軸受球の強度について研究したのだが、深く学ぼうとすると、機械の知識だけでは足りず、化学の知識が不可欠になってくる。そこで、大学院では化学の道へ進んだ。サステイナブル熱電変換材料としてテトラヘドライトを使えないか、という研究で、テトラヘドライトのナノ粒子を化学合成し、作製した熱電変換材料を分析・評価した。機械では、計算して設計すれば、そのとおりのものができる。だが化学では、あらかじめ想定して条件を定めても、予想通りのものはなかなかできてこない。それをなんとか予想しようと、あちこちから知識を仕入れ、考える。好奇心が深く刺激された。

就活では、当初は機械系に進もうと考えていたが、化学メーカーも受けることにした。いくつかの候補企業があり、中には、学んできた機械やセラミックスの経験を直接活かすことができそうなメーカーもあった。だが出会った日産化学には、ナノ粒子で新しい材料を生み出そうとする熱意を強く感じた。大学院の2年しか化学をやっていない自分が化学メーカーに進むことには不安もあったけれど、ワクワクする気持ちが上回り、“将来、革新的な材料を生み出したい”という想いが強く湧いてきて、入社を決めた。

大学で学んだこと

熱電変換素子は、廃熱を有効利用して電力を生み出せるため期待されており、その材料として、豊富に存在し毒性の低いテトラへドライトが注目されている。私はそのナノ粒子を化学合成し、熱電変換材料を構築して評価した。新しい材料を生み出す研究内容そのものもおもしろかったが、学会発表で、より多くの人に直接研究内容を伝えたいという想いから、英語での口頭発表に挑戦したことも思い出に残る。英語を流ちょうに話せない私は、発音練習と暗記をくり返し、多くの方に向けて話すことができたのだ。

入社した私は、無機材料研究部に配属となった。日産化学の無機材料の歴史はとても長く、シリカゾルは約70年も生産を続けている材料だ。それでもなお、新しい用途が開拓され、新製品開発が行われている。シリカゾルの中で私が担当することになったのは、有機溶媒にナノレベルのシリカを分散させたオルガノシリカゾル。水性のシリカゾルでは難しい“樹脂との複合化”ができるため、有機-無機ハイブリッド材料を生み出すベースとなる。

無機のナノ粒子の表面に、相性のいい有機材料をコーティングして、ナノレベルで組み込んでいく、一言で言えば、それが有機-無機ハイブリッド材料だ。それにより、耐熱性や強度などが高い無機材料と、簡単に形を変えられてデザインしやすい有機材料の良さを両立できる。有機-無機ハイブリッド材料は、ディスプレイ・半導体・自動車・医療などのさまざまな分野で、次世代向け機能性材料として注目され、実用化が進められている。

だから今、オルガノシリカゾルのグループにいる私のテーマは、幅広い分野にわたる。共通点はナノ粒子を扱って有機-無機ハイブリッドで、ということだけだ。たとえば、私が担当しているテーマの一つに、自動車のモーター向け材料がある。ハイブリッドカーなどモーターで走るクルマが増え、性能を競う中で、モーターの材料にも高性能化が求められている。無機のシリカゾルを加えることでその性能を高めることができるが、どういった表面改質をして加えれば、より高めることができるのか、試行錯誤を続けている。

私を取り巻く環境

無機材料研究部には、実にさまざまなバックボーンを持つ研究員が集まっている。生物系や物理系なども含め実に幅広く、それらの融合が、新材料の研究開発で強みになっていると思う。先輩たちそれぞれの専門分野での知識の量には、いつも驚かされてばかりだ。逆に、高専で機械工学を専攻していた私にアドバイスを求められることもある。機器に合わせた材料を開発する時に、機械的特性や機械の設計思想を検討することもあるからだ。機械工学と化学、その両方を知る者として、それらをつなぐことで、新たなものづくりを参画していきたいと考えている。

もう一つ、私は、無機材料研究部で初めての新しいテーマも担当している。それは、第5世代移動通信(5G)向けの材料だ。2020年代には4G に変わって5Gが普及していくとされるが、その通信機器を構成する電子部品には、新たな機能が求められる。私は、そのような新機能を持つ電子材料の創出に取り組んでいる。といっても、研究部としても新しい分野であるうえに、私にとっても新入社員として配属されて早々に取り組んでいるテーマなので、わからないことだらけだ。自分なりに論文にあたり、特許を調べ、考えるのだが、それだけではもちろん足りない。そんなとき、日産化学には、さまざまなバックボーンを持っている研究員がいるのが心強い。時には他の研究部に、他の材料で5G向けのテーマに取り組んだ知見を持つ先輩がいると聞き、部門を越えて質問をしにいったりもする。自ら積極的に動けば、必ず何かを学ぶことができる環境なのだ。わからないことを一つずつ解き明かすのはワクワクする。そのような先に新しい価値が生まれるのだと思う。

私が担当している開発には、まだ始まったばかりのものもあれば、すでにユーザーのメーカーと具体的な検討を重ねているものもある。今は“とにかく早く製品を市場に送り出したい”という気持ちだ。それは、世の中に対して私から発信する、初めての価値になる。日産化学ならではの新しい価値を生み出したい。それが、今の私の大きなモチベーションになっている。

My Never-ending Chemistory

新しいことを学び、
解き明かし、創り上げる日々。
世の中に対して価値を生み出したい。