My Never-ending Chemistory

財務部は、企業の活動を、計数を通じて明らかにする部署だ。具体的な業務は、決算業務はもちろん、会計士監査への対応、株主総会関連資料の作成、会計基準の変更への対応などと幅広い。財務の仕事は、研究開発や営業のように、その会社ならではの製品を直接扱う仕事ではないため、会社によってどのような違いがあるのかがイメージしにくいといわれる。転職経験を持つMUは、日産化学の財務部で、どのように感じ、何を経験しているのだろうか。

大学では商学部で、大学院にも進んだ。商学の中でも関心があったのは、会計や簿記の方面よりも、貿易や国際マーケティングの方面だった。学部時代にアメリカへ交換留学に行ったのはそのためだし、大学院では国際マーケティングマネジメントを専攻していた。簿記の資格も一応は取ったが、教科書を読んでいてもイメージが湧かず、試験のために暗記しただけだった。だから、新卒で入社したメーカーで経理部に配属された時には、ちょっと困ったなと思った。

でも、仕事をしているとだんだん経理がおもしろくなってきた。実際にお金やモノが動いていく様子が自分の中で腑に落ちてきて、仕訳の業務が貸借対照表や損益計算書にどうインパクトを与えるのかも分かってきた。知識や経験を蓄えながら、その部署で約7年、仕事を続けた。

だが、次第に不安が頭をもたげてきた。そこは巨大なメーカーで、経理部も大きな組織だったため、業務が細分化されていた。一部に詳しくなれても全体の流れを把握することができない。決算にしても、最初から最後まで担当することは到底できない。ここでは、これ以上成長できないのではないか。もっと幅広く業務を担当して、自分の幅を広げたいなと考えるようになった。

転職先の候補として日産化学を考えたとき、財務状況を調べた。売上げの規模は大企業の中では決して大きくはないが、利益率10%以上を維持している。財務基盤がしっかりしている会社だなと思い、過去の決算発表を調べていくと、上方修正はしていても、下方修正はしていない。正確な数字を出せて、約束を守る、誠実で信頼できる会社だと思ったのが決め手となった。今振り返ると、「あの時、いい会社を見つけられてよかったな」と思う。

大切にしていること

部署のサブリーダーになった。後輩も入ってきているので、自分自身が担当する業務だけではなく、私がメンバーに割り振って担当してもらうという仕事も増えてきている。正確にムダなく、誰にでもわかりやすい形で、共有化、平準化をしていくのがテーマだ。

日産化学に入って財務部での仕事に就き、一番に驚いたのは“老舗企業の管理部門”というイメージと違っていたことだ。海外の子会社まで含めて、すべて共通の経理システムが入っていて、合理的で効率的。そして財務担当の副社長からは、毎年同じことだけに終わるな、と言われる。少しでも分かりやすく、少しでも出せる情報は出していこうというアグレッシブな意欲が高い部署なのだ。

私が取り組んだことの一つに、事業部別のBS(バランスシート=貸借対照表)のシステム化がある。それまでは年に2回、すべて手作業で集計していた。決算に必要な作業ではないため任意で行っていたのだが、「その数字を毎月追いたい」という要望が経営陣から出てきた。近年の財務では、PL(損益計算)の数字だけではなく、どれだけ少ない資産でどれだけ効率的に利益を上げられるかというROE(Return On Equity)を重視する。そのために事業部別BSが要るのだ。毎月となると手集計では追いつかないので、システム化を進めることにした。要件を全部洗いだして、社内の各事業部やシステム部門とも密に打ち合わせしながら進めた。実際に事業部別BSを取締役会に報告できたときには、財務担当副社長からも「やりたいとは言ったけど、これほどうまくできるとは思ってなかった」という言葉をもらった。もちろん私だけの力だけではなく、社内の各部門と力を合わせて達成できたのだが、すごくやりがいがあり、自信にもなった。現在、財務部では事業部別BSを毎月作って取締役会に報告している。

企業の財務や経理は、受け身の形で仕事をすることが、どうしても多くなりがちだ。膨大なルーティンワークで精一杯になり、プラスαの業務に取り組むことが難しい。日産化学では、そうしたルーティンワークは効率よく進めることができるので、それに加えて、付加価値のある仕事に取り組める環境だと思う。

私を取り巻く環境

入社して驚いたことの一つは、フラットでフランクな社風だ。それこそ社長や副社長のことも、普通に「さん」付けで呼ぶし、気軽に昼食に誘ってもらったりもする。伝統ある企業だけに、もうすこし堅苦しいのかなと思っていたが、まったく逆だった。

これまで特に印象的だったのは、海外企業の買収に関わる業務だ。相手は、機能性材料分野のドイツ企業。私は経理的な面から関わった。日産化学はこれまでM&Aを頻繁に行ってきたような会社ではないので、ノウハウが蓄積されていたわけではなく、私はもちろん、関わる社員の多くが初体験だった。分からないなりに自分たちで調べながら進め、私自身もドイツに行き、通訳の役割も果たしながら、先方の会社との交渉に関わった。一連の業務を経験できたことは、私自身としてはすごく勉強になった。今後、成長市場の会社と提携したりM&Aをしたりという話が、おそらく出てくることだろう。そういったときに、この経験を活かしていきたいと思う。

もともと貿易や国際マーケティングに興味のあった私が、社会人になって経理畑を歩み始めたとき、世界を相手にするような仕事とはもう縁がないのかな、と思っていた。しかし今、私も経理という立場で、少しではあるが参加できている。また、経営に近いところで仕事をしていると感じられることも、やりがいにつながっている。キチンとした数字を出し続けることを、ぶれずに追求してきた会社の中で、財務を担当することの喜びを感じながら、責任を全うしていきたいと思う。

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「約束は守れませんでした」と言わない会社の中で、
私自身もそうであり続けたい。