My Never-ending Chemistory

工場に勤務する事務系は何をするのか。人事、労務などの管理業務に担当する場合もあるが、よりモノづくりに近い生産管理に就く場合もある。入社1年目に工場に配属となったT.T.が担当したのは、プラントの生産管理。そこで何より求められるのは緻密な計画だ。数字を組み上げ、綿密にプロセスを構築する。だがそれだけでは、計画は絵に描いた餅でしかないことをT.T.は痛い思いをして学んだという。

褒められたものではないかもしれないが、私の学生生活は、ほぼスポーツ一色だった。小学生からやっていた剣道は、大学では準体育会で続けた。さらに大学では違うスポーツもやって幅を広げたいと体育会ヨット部に入った。ゼロから新しいスポーツを始めてみたかったのもあるし、競技人口が少なく初心者でもトップを狙えるのではと思ったからでもある。入部後は、どうやれば経験者に追いつけるかと考えるところから始めた。そのレベルに達しなければ楽しめないからだ。結果、3年時に全国大会で過去最高成績を残し、4年生時には主将としてチームを率いた。剣道では準体育会の団体戦で日本一になり、個人では4段になった。工夫して努力し続ければ成果を得られる、ということを経験した。

就活では、ヨット部の合宿や大会が詰まっていたから、とにかく時間がなかった。社数をMAXで20社と決め、まず超大手企業を数社見に行った時点で、このような規模では頑張っても埋没して見つけてもらえない危険があるなと思い、適度な規模の会社にしようと決めた。その中で、より風通しがよさそうで、若手にチャンスが与えられそうな企業として日産化学を選んだ。

入社時には、営業で一番になりたいという希望を持っていたが、そのためにはモノづくりの現場で知識や経験を得る必要があるだろうとも考えていた。だから富山工場に配属になったのには納得だった。

大切にしていること

化学メーカーに興味を持ったのは、大学時代のヨットの経験からだ。ヨットでは多数のコントロールロープを操って船を走らせる。ロープが成績に影響するので、素材の勉強をしたところから、繊維メーカーや化学メーカーという選択肢もあるな、と気づいた。多くの同級生が金融やIT業界を目指す中、人とは違う進路でおもしろそうだなと思った。

工場に来て総務部管理課に配属になったが、飛び交う専門用語が何一つわからず、資料に並んでいる数字が難解で手に負えなかった。この難しい環境を楽しむためには、一日も早く、楽しめるレベルに達する必要がある。限られた時間で最大限の進歩をするために、優先順を付けて勉強をしていった。たとえば管理にExcelが必須だと分かったら、一日も早く使いこなせるよう、プライベートの管理もあえて便利なアプリを使わずすべてExcelでやる。上に追いつくためには頭を使って努力する。それは私がスポーツの経験から得た信念だ。

生産計画を立てるためにはモノの流れを知る必要がある。原料がどこからどのように入ってきて、工場内にあるプラント間でどのように動き、出荷されていくか。わからないことは現場に行って話を聞く。なにせゼロからスタートだから、レベルが上がっていく手応えがある。次はどうしようかと考えるのが楽しくなってきた。

だが、慣れてきて何回目かの生産計画を立てたときに、しくじった。それまでのわずかな経験に基づく思い込みだけでプランニングし、営業や物流など関係各所への確認を怠ったのだ。物流会社からトラックもコンテナも空きがないと連絡が入った。このままでは納期に間に合わなくなる。焦りながら、関係者に頭を下げて無理をお願いし、何とか納期に間に合わせることができた。このとき肝に銘じたのは、計画は人が動いてはじめて計画通りに進むという、基本の基本だ。いくらExcelのシート上で完璧なプランでも、実際に行うのは生身の人間。多くの人に確実に動いてもらってプランを実現させるのが、生産管理の難しさでありおもしろさなのだ。

私を取り巻く環境

工場の生産現場には、ベテランの操業員が多い。なかには親分肌とでもいうのか、面倒見のいい方も多く、私のような若手が質問をしに行っても、「また新人が来たか、教えてやろうか」という感じで教えてくれる。そうしたモノづくりを実際に担う人たちがスムーズに仕事ができるように整えるのも、私たち生産管理の仕事だ。

1年目に硫酸プラントを担当し、2年目にはアンモニアのプラントを任された。私の部署では、生産管理の仕事について、上司から細かなところまで指示されるわけではなく、まずは自分で考えて進めていく。アンモニアプラントは富山工場の根幹であり、そこからさまざまな系列の化学品が生まれるだけに、より責任の重いプラントだ。そうした業務を任されるのには強いやりがいを感じる。

各プラントの生産管理と同時に、工場全体の損益管理も私の担当になった。多くのプラントでさまざまなモノづくりをしている富山工場では、どこにどのような経費がかかり、どのように利益が出ているかを管理していく。そこには物流などの関係会社や、工場内にある研究所もからんでくる。経理の知識のなかった私には、かなりヘビーな業務だ。経理・簿記の勉強や、各部署をよく知る勉強はもちろん必要だが、勉強しなきゃというプレッシャーだけではつらい。そこで私は、経営者の気分になって考えることにした。「このプラントの状況はどうだろう」、「この部署は経費がかかりすぎかもしれないな」などと独り言を言いながら損益管理をしていく。すると、どんどん興味が湧いてきて、楽しくなってくるから不思議だ。

工場でチカラを付けたら、次は、営業など、今の経験だけではできない別の業務に就きたい。いずれ事業や会社の全体を見て統括するような部署で仕事がしたいと思う。私の中では、仕事のオンオフを切り替えるという感覚がない。オンオフを切り替えるという人は、オンは楽しくなくてオフは楽しいのだろうか。私はオンが楽しいし、もっと楽しくしたいから、いつも「次はどうしようか」と考えている。このやり方でいつも一番をめざしてきた。仕事でも、いつか何かの一番になりたいと思っている。

My Never-ending Chemistory

どうしたら、もっと仕事が楽しくなるだろう。
いろいろ考えて、やってみること自体が、楽しい。