My Never-ending Chemistory

医療はさまざまな技術や製品に支えられている。重要な役割を担っているものの一つが医療材料だ。たとえば、iPS細胞を実際に医療で活用するには、これを培養する材料が欠かせない。大学院でES細胞の研究に携わったN.A.は現在、医療材料の研究に携わり、複数のテーマを抱えて日々奮闘している。

将来は再生医療に携わりたい。そんな思いを抱いたのは高校生のときだった。ある大学のオープンキャンパスに行き、培養された心筋細胞がシャーレの中で拍動している姿を見せてもらって衝撃を受けた。「再生医療という研究領域がある」と聞いて、「あ、やりたい!」と思った。今後、再生医療が普及すれば、これまでなら移植を待つしかなかった多くの人の命を救えるかもしれない。対症療法ではなく根治療法になると理解したとき、世界が変わる可能性を感じた。ちょうどその年の冬にiPS細胞が発表され、再生医療研究が一気に加速し始めた。

どうすれば再生医療に関われそうかを調べて、生命工学科を選び、大学から大学院にかけてES細胞を使った研究に携わった。就活では、製薬会社や化粧品・食品メーカーなど、生物評価のためにiPS細胞を導入しそうな会社を見に行きつつ、工学部をバックグラウンドとする私が受け入れてもらいやすいのでは、と思い見ていた化学会社の一つとして日産化学に出会った。面接に来たときのことは今でもはっきりと覚えている。面接というよりも研究についてのディスカッションのように話が進んでいく心地よさ。入社したらきっと、毎日こんなふうに議論しながら仕事ができるのではないかと感じた。

その印象は、実際に入社しても変わらなかった。キャリアの垣根がなく、1年目から話を真剣に聞いてもらえる。「私はこう思います」と意見を遠慮なく言えて、しっかりと受け止めてもらえている実感があった。

大学で学んだこと

ES細胞を培養する培地に、特定の成分を1つ添加するだけで、細胞が多層化した骨格筋細胞へ分化する機序の解明に取り組んだ。細胞が自発的に多層化するのは極めて特異な現象であり、その機序が明らかになれば再生医療に大きく貢献できる。そこで分化過程の細胞の蛍光染色画像を用いてイメージング解析などに取り組んだ。

入社後、いきなり期限付きの仕事を任された。実質1カ月強の間に、独立三試験で細胞を評価したデータを出してほしい、と。良いデータが出せればグループリーダーが学会発表に使うという。一回の試験をするだけでも培養期間に10日程度かかる。これはミスが許されないな、とプレッシャーがかかったが、何とか締め切りを守ることができた。仕事に締め切りがあるのは今では当たり前だけれど、学生時代とは違うシビアさを最初に体験できてよかったと思う。

次に携わったのは、培養した細胞のイメージング解析。対象は、三次元培養培地「FCeM®」だ。この製品は販売促進に必要なアプリケーションの適応例制作に差しかかっていた。その作業の一環としてFCeM®で培養した細胞を蛍光染色して画像解析し、その結果をレポートにまとめるのが私の仕事だった。全体の大まかな流れは先輩がつくってくれていたものを引き継ぎ、自分なりにプロトコルを考えてデータを出していった。一から技術を身につけていき、先輩のアドバイスを受けながら、やり遂げることができた。

私を取り巻く環境

大学院の研究室では、昼も夜も土日もなかった。だから会社の研究所に入って驚いた。「お休みがある!」って (笑)。最初の頃は休みの日に何をしたら良いのかわからなかったが、そのうち時間のかかる料理をするようになったりと、自分なりのペースをつかめるようになった。家事をすることで、仕事とのメリハリがつき気分転換ができていると思う。

今はいくつかのテーマを担当しているが、その中でも私が注力しているのは、生体物質付着防止コーティング材料「prevelex®」の細胞評価だ。通常なら細胞をプレートに付着させて培養するところを、付着させずに培養したいというニーズに対応する製品。現在、prevelex®を使って培養した細胞による、大学病院での臨床研究が計画されている。これまでは研究所レベルで材料をつくっていたが、これからは安定した製造と量が求められ、富山工場への製造移管を完了しなければならない。今はそのための条件検討品の細胞評価や性能評価など移管準備の真っ最中だ。富山工場、材料科学研究所、物質科学研究所の担当者とも相談しながら、協力して移管を進めている。

「prevelex®」は、生物科学研究所と材料科学研究所の共同開発から生まれてきた材料だ。材料そのものの設計は、主に電子材料や半導体材料を研究してきた研究員が担当している。それにより新たな課題も出てくる。たとえば生物評価のブレについて。細胞を使い、ほんの少し付着するかどうかを見るような実験なのでブレが生じがちで、それが材料のブレなのか細胞のブレなのかも切り分けにくい。どうしても相対評価になるが、細胞などの生体試料を扱ったことがない材料系の研究員には、そのことを理解してもらいにくいのだ。しかし、そうした課題が起こるのも、これまでの枠を超えたチャレンジをしているからこそ。今後もそうした中から新しい製品や技術が生まれると思う。まずは今の私の役割、ブレを補正しながら的確な評価をすることをやり遂げたいと思う。

My Never-ending Chemistory

新たなチャレンジにあふれた仕事。
だから、もっと力をつけたい。
そして、もっと製品を世に出していきたい。