My Never-ending Chemistory

ナノサイズのシリカ粒子を液体に分散させたものが「シリカゾル(コロダイルシリカ)」だ。日産化学の無機コロイド事業は、独自の微粒子制御技術により、シリカゾルを制御し、高機能な製品を開発、供給する。K.S.は、まずユーザーに近いところで研究開発に取り組んで経験を積み、現在は、まったく新たな用途の探索に取り組んでいる。次々と新しいテーマに挑むK.S.は、どのようにしてインパクトのある材料を生み出そうとしているのだろうか。

私は大学院でガラスやセラミックスを専攻し、チタニア(TiO2)ナノ粒子の光触媒作用を向上させる研究に取り組んでいた。だが、就活では特にガラスにこだわらなかった。材料を決めきってしまうと、視野も選択肢も狭まってしまう気がしたのだ。無機を扱って、社会に幅広く役立つ材料をつくっているメーカーがいい、と探す中で日産化学に出会った。

日産化学は有機合成に強いことで知られるが、実は無機材料の歴史もとても長く、シリカゾルは約70年も前から世に出ている。シリカゾルは、紙や繊維、鉄鋼、鋳造、耐火物、電池、研磨剤など、実に幅広い産業に使われるB to B製品であり、用途に応じて多様なラインナップがある。無機材料研究部では、それら多様なラインナップをベースに、顧客のニーズに合わせてオーダーメイドの材料を作り上げていく。入社した私は、まず、その最前線を担当した。いわゆる“ユーザーに近い”研究開発の仕事だ。

大学と企業の研究が違うのは、想像はついていた。だが、それでも時間感覚の違いには驚いた。入社して最初に担当したのは、トラブル対応。ユーザー企業に納品している製品が、先方の要求する性能を出せていない。原因を解析し、解決の道筋を立てていくのだが、要求されるスピードたるや想像以上だった。次第に直接ユーザーに行くようになり、先方の技術者と打ち合わせをするのは厳しい面もあったが、とても刺激的で勉強になった。彼らが何を大切にして製品開発をしようとしているのかを肌で知ることで、ものづくりに参加することの基本を教えてもらったように思う。

仕事を通して学んだこと

誰もやっていないテーマでは、参考にできる指針がない。だから、思うような実験結果が出ないとき、ふと方向性を見失いそうになる。そんなときには、ひたすらアタマを動かすか、それがダメなら手を動かすか、どちらかだと思っている。経験を積むと、ついついアタマで分かったような気になるが、私が知っていることなんてほんの一部に過ぎない。自分のアタマを過信せず、「こんなの、うまくいくはずがない」と思う組み合わせも意図的にやってみる。すべての答えが理屈で出るなら、研究者なんて要らないはずだから。

シリカゾル(無機コロイド)のうち、私が主に担当してきたのは、半導体向けの研磨剤として使われる分野だった。「ナノ粒子のシリカで電子部材の基板を平らに磨く」と言ってしまえば簡単なのだが、基板にはシリコンウエハ、ハードディスクなど、さまざまな種類がある。磨くものが変わると、物性が変化するため磨き方が変わり、磨くためのコンセプトを変えなければならない。基板の種類ごとにコンセプトを検討するのは、とてもおもしろい作業だった。
さらに、基板のユーザーごとに要求されるスペックが異なるため、きめ細かく対応していく。半導体の業界では、日本以外にも韓国、中国、台湾に世界的なメーカーがある。一時期は週の半分はユーザー企業に行って、提出したサンプルの評価結果を聞き、宿題をたくさんもらってきて、残った日数で実験や解析をし、またサンプルをつくって提出する。そんな活動を毎週、続けていた。時には難題に悩むこともあったが、着実にものづくりを進めていく手応えがあった。
それが実現できたのは、無機材料研究部が工場内にも併設されている体制のおかげでもある。製造を担当してくれる社員と直接相談しながら、スピーディにものづくりができるのだ。

シリカゾルを研磨に用いる比較的新しい分野として、LEDがある。LEDの下地基板はサファイアでできており、その上にGaNのような光る層を乗せるので、サファイアの基板を平らにする必要がある。もともとデコボコのサファイアの表面を、1ナノメーターよりも小さな高さの差で収まるように磨く。いわゆる“原子の層が見える”レベルだ。成長している分野だけに活気があり、難易度が高いが、やりがいのある仕事だった。

このようにして7年半の間、ユーザーに近いところで研究開発に携わった後、私は、まったく新しい用途の探索に取り組むことになった。

私を取り巻く環境

ある日、上司に「学位、取りたいの?」と聞かれた。「通常の業務とは別に、事業に活かせる新規材料、その用途展開の研究をして、その成果を学位論文としてまとめてみる? 」と勧めてくれたのだ。そこで私は出身大学に戻り、無機のナノ粒子の配列をきれいに整えることで、使い方をより高度にする、という研究に取り組んだ。業務との両立はなかなか難しいが、上司や同僚も配慮をしてくれた。研究者にとっては恵まれた環境だと思う。その研究結果は、論文として発表することができた。

私は、エネルギー分野で、無機コロイドを使えないかと発想した。エネルギー問題が、人類にとって大きな課題になっており、さまざまな新エネルギーが提案されているが、なかなか普及は進んでいない。それらが長所と同時に短所を持っており、普及の妨げとなっているためだ。その短所を、無機コロイドによって改善できないかと考えたのだ。
無機コロイドの用途の一つとして、触媒用途がある。添加することで、触媒として働き、反応を高めたり、物質の性能を変えたりすることができる。私は、ある物質に無機コロイドのナノ粒子を添加することで触媒効率を上げる方法を研究し、特許を出願した。

実はこれ、私が日産化学に入ってから通常の業務と並行して研究していたものだ。日産化学では、入社して間もなくからのセルフスタート研修で、自らテーマを挙げて研究をする制度がある。私は無機コロイドの新しい用途として、エネルギー分野での触媒用途の検討を行ったのだった。
その時は研修の枠内で終わったが、新規用途探索の担当になって、そのテーマを掘り起こしてみた。まったく新規の用途なので、ユーザー企業との接点がない。また、なぜいい性能が出るのか、メカニズムの解析も必要だった。それらを探すために、国内外のセミナーや学会へどんどん参加した。
そうした中から、海外のメーカーに持ち込んで評価を受けたり、大学と共同研究を行ってメカニズム解析を行ったり、といった活動が生まれてきた。まったくこの分野に実績のない日産化学の、いち研究者が持ち込んだ材料の話を、フェアに聞いて評価してくれた。それは素晴らしい体験だった。

さらに現在では、より新しいテーマにも取り組んでいる。これまでにないタイプのシリカゾルをつくって、電子材料分野に投入できないかという研究だ。何よりおもしろいのは、誰も答えを知らないこと。どんな文献や論文にも載っておらず、自分たちが出した実験結果が、世界の最先端。出てきたデータを見ること、それを解析することがとても楽しくてワクワクする。まだまだ課題は多いが、いずれこの材料が採用されれば、電子機器メーカーのものづくりが変わり、幅広く役立つことができるはずだ。上市までずっと自分で担当して、必ず世に送り出したいと考えている。

My Never-ending Chemistory

シリカゾルは研究しつくされた、
なんて、とんでもない。
必ず、世の中を変える製品を生み出せる。