My Never-ending Chemistory

実験ではいつもクリーンな結果が得られるわけではないが、計算科学では実験をしなくてもクリーンな結果が得られる。物質解析研究部の計算科学グループは、計算科学の技術を駆使してシミュレーションやビッグデータの解析を行い、新技術や新製品の創出を支援している。その分野でキャリアをスタートさせた若き研究者A.K.は、どのように計算科学の研究者として成長しようとしているのだろうか。

理学部化学科に入ってすぐに、数学の魅力にとりつかれた。数式を使えば、世の中で起きているさまざまな現象を記述できる。とても理路整然としていながら、ある種、摩訶不思議な世界で、有理数と無理数の濃度の違いの証明に熱中したこともある。

数学の勉強を活かせる化学研究の分野として、量子化学という分野があると知り、それをやろうと1年生の時に決めた。大学院は計算科学を専門とする研究室を選んだ。博士課程まで学ぶ中で、計算をする人や実験をする人、数学好きの人や化学好きの人、さまざまなタイプの人と出会った。私はどの道に進もうかと迷ったとき、数学が好きな私が化学をやれば違いを出せるのではないかと考えた。

大学に残らず企業に就職することにしたのは、“実験をする人たちの中で計算をしたい”という気持ちが強くなっていたから。大学で計算科学を研究していると、実験をする人たちとコミュニケーションを取る機会はそう多くない。企業で計算をすれば、必然的に実験をする人たちと仕事をすることになり、そこから生まれたモノを製品として世の中に送り出すこともできそうだ。そこで、計算科学を熱心に活用しているメーカーを探し、日産化学へ自分からアプローチした。

大学で学んだこと

大学院で進んだ研究室は、計算科学のラボで、エネルギー関連材料を対象とした研究が行われていた。そこで光触媒の研究に触れたことが今につながっている。太陽光を使って水素燃料をつくる技術につながる研究、光エネルギーの活用は、これからの社会にも役立つ。単に大好きだった数学が、世の中とつながったのだ。

計算科学グループの仕事は、必ず他の研究部との共同研究となる。相談が来るのは、どちらかといえば実験結果がうまく出ないときだ。その理由や解決策を計算によって求めるのが、私たちの仕事となる。

とはいえ、他の研究部との協働が、入社当初の私にすぐにできたわけではない。他の研究部の業務報告会に参加しても、製品や技術の知識がないので飛び交う専門用語がわからない。しかも事業分野、研究分野はたくさんある。必要な基礎知識を身につけるための勉強から始めなければならなかった。

ようやく少しわかるようになってきた頃から取り組んでいるのが、有機材料。研究者によると、とりあえず良い材料ができたが、なぜ良いのかがわからないという。巨大な分子からなる材料であり、合成の際には複雑な事象が数多く絡み合っている。材料設計の指針を明確にしようとすれば、膨大な種類の実験をしなければならない。そこで、なぜ良いのかを計算で出せないかな?と相談された。計算で明確にできれば、材料設計や製品化への道を短縮化できる。

最初は、その材料がどういう現象やメカニズムで動いているのか、計算科学で何を計算したらいいのかさえ分からなかった。そこから始めて、今は分子間の相互作用を切り口とし、電子状態計算により構造モデルを検討している。計算結果を検証するためには統計解析の技術も必要になる。大学時代にやってこなかったので勉強をし直しているところだ。最終目標は、その材料設計の指針を出すこと。苦しいけれど、なんとか成し遂げたいと思う。

私を取り巻く環境

月に一度は外部のセミナーなどに行かせてもらっている。計算科学ではなく、材料のセミナーが中心だ。大学の時は、計算技術そのものを上げるためのセミナー参加だったが、今はモノづくりのために勉強をするのがうれしい。

物性を明らかにしようとアプローチの手法を考え、計算によって狙い通りに確認できたとき、つまり“見たい物性を見られたとき”は、何者にも代えがたい喜びがある。論文を読み込んで先行研究を調べ、新たな計算手法を導入することもある。そうして計算して出した結果が、実験サイドから出されていた成果と一致すれば、新たな計算手法が確立されたことを意味する。

最近ではコンピュータの能力がどんどん高まり、計算で処理できる項目が増えているけれど、ツールや手法が進化すればするほど、それを使いこなす際のビジョンが求められると思う。私はまだ、その課題を解決するにはどういう手法が使えるのだろうと考える時間のほうが長い。今後は、計算に使えるツールのバリエーションをもっと増やし、それらの使い方のセンスを磨きたいと考えている。

依頼分析を受ける際などに、メールや電話で説明してもらっても分からないことが多々ある。先日も「シール剤って書いてあるけど何?」って思っていたら、「こういうのだよ」って持ってきてくれた。穏やかで丁寧な人が多く、フェイストゥフェイスで打ち合わせやディスカッションができる。そういうモノづくりの現場で、計算の仕事ができているのはいいな、私、会社を見る目あったな。そう思っている。

My Never-ending Chemistory

経験を積んで成長したい。
計算科学への期待に
応えていくために。