My Never-ending Chemistory

合成研究部は、日産化学のプロセス研究の専門家集団。その戦略技術グループに所属するS.Tの仕事は、製造プロセスの研究だ。実際の製造プロセスの構築をにらんで、品質・コスト・納期を勘案し、最先端技術の導入などで製造の高効率化を目指す。モノづくりのキーマンとして活躍するS.Tの思いを聞く。

フラスコの中の反応をスケールアップして工場の実機で再現することが、私のメインの仕事「プロセス研究」の目的だ。研究開発された医農薬や新規材料は、日産化学の全国の工場、あるいは製造委託先へ技術移管をして製造を進める。大量製造するには、実験室のフラスコレベルの合成とは比較にならないほど、特に安全性の観点からの非常に細かい実験データの取得が必要となる。

私は入社から2年目まで、医薬品プロセス研究グループに所属していた。医薬品は非常に複雑な構造を持つものも多く、工場では十数工程を経て製造されることもある。その工程の中で、微妙な温度変化によって不純物が多く生成されると、品質が確保できず、開発の遅れや出荷停止に繋がるため、プロセス研究の責任は重大。また、現場の操業員の方が安全に操業できるように、徹底的に安全性を確保する必要があり、常に緊張感を持ちながら業務に取り組んでいる。その結果、すべての工程でトラブルがなく、想定した収率、クオリティで製造できたときは、苦労が吹っ飛んでしまうほど嬉しく、また安心する瞬間でもある。

製造プロセスと徹底して向き合うことではじめて、製品を安全かつ安定してつくることができる。プロセス研究者はいわば、“水先案内人”だといえる。

大学で学んだこと

スポーツをしていた経験から、生命や身体に関心があった。そこから創薬、有機化学に興味を持ち、大学・大学院では化学応用学で、新規有機反応の開発を主に研究していた。そこからプロセス研究に携わりたいと思うようになった。

プロセス研究はイノベーションを起こす役割も担っている。私は入社3年目から戦略技術グループで、既存製造プロセスの見直しや新技術導入を検討する業務に携わっている。「現行のプロセスではコストが高い」「製造スケジュールを短縮できないか」といった課題を、新反応や新技術の導入によって解決し、自社の製造技術を革新させることも重要なミッションなのだ。

プロセス技術の革新として、今特に注力しているのが、フローケミストリーだ。現在のファインケミカル産業における製造手法はバッチ反応が主となっているが、装置の大型化や単位操作の煩雑化に加え、エネルギー効率が悪いといった欠点がある。近年、連続式のフロー反応が、業界規模で注目されつつあり、そのフロー(マイクロ)反応の特長を活かせば、バッチ反応では不可能であった製造ができるようになり、工場のサイズを10分の1程度に縮小させ、環境負荷を低減できるといわれている。これら革新的な技術を日産化学で実現させることが私の仕事だ。

こうした新技術の導入は、いわば正解がない問のようなもの。自分なりの正解を探すためには情報収集が欠かせない。時には産学連携により研究を推進することもあり、日々、模索を続けている。イノベーションを起こす分野に携わることに、何物にも代えがたいやりがいを感じている。

私を取り巻く環境

日産化学はスポーツが盛んだ。私は野球部に所属。平日昼休みにはキャッチボールなどを楽しみ、休日には大会や社内の親善試合に参加することもある。部長クラスの人ともスポーツを通して交流できるのが楽しい。忙しい時期にはなかなか参加できないこともあるが、今後も続けていきたい。

自ら作り上げたプロセスで数十kgもの製品が製造される瞬間に立ち会う。苦労して作り上げたプロセスであればあるほど、より大きな達成感が得られる。それがプロセス研究の醍醐味だと思う。

日々の業務をこなしていけばプロセス研究の基礎は身につく。しかし、問われるのは、そうして身につけた知識をベースに、いかに自分なりの視点で新たな知識を積み上げていけるか、ということ。できあがったプロセスには、やはりその人のオリジナリティが出てくるだけに、大きなやりがいがある。

それは一方で、会社のモノづくりを担う、プレッシャーのかかる仕事でもある。だから私は、常に広い視野を持って可能性を探っていくことを大切にしている。
これまで、周りにいる上司や先輩を目標にしてきた。「この先輩が今できることを、来年には私もできるようになりたい」と細かな目標を立てて、常に自分がどのくらい達成できているかを確認するようにしてきた。
だが今は、私よりも若い研究員も増えてきている。今度は彼らの目標となれるかどうか。今後の新技術導入では、ぜひ中心的な役割を担っていきたいと考えている。

My Never-ending Chemistory

プレッシャーをバネに、
新技術導入で
モノづくりを革新したい。