My Never-ending Chemistory

プロセスエンジニアリングとは、研究と生産の橋渡しをすること。どれだけ優れた材料が開発されても、顧客のニーズに合わせた量産化が達成されなければ製品にはならない。求められるのは、実用的で高品質の製品を生み出せる製造プロセス。韓国での工場立ち上げにも携わりながら、プロセスの品質を追い求めるS.J.に聞いた。

母国・韓国の大学で安全工学を学んでいた私が交換留学で日本に来たのは、日本語を話せるようになりたいという軽い気持ちからだった。交換留学先の研究室で誘われ、院試を受けて合格、日本の大学院で学んだ。修士課程を終えて、どちらで就職するか、考えた。韓国には世界トップクラスの半導体メーカーがあり、日本には素材のトップメーカーがあるが、その頃には、日本の企業や社会を勉強したい、という気持ちが強くなっていた。

日産化学に縁を感じたのは面接のときだった。それまでの日本企業の面接では、日本語でキチンと話さねばとの思いが強くて、緊張してうまく話せず失敗していた。ところが日産化学では人事部長がひと言「ケンチャナヨ(大丈夫だよ)」と。これで一気に気持ちが楽になり、うまく話せたのだ。

入社後に配属されたのは技術開発部の電子材料チーム。最初に担当したのはARC®(Anti Reflective Coating)のプロセスエンジニアリングだ。この化学材料は、半導体製造において、製品精度を高めるために使われる。まずARC®を安定的かつ迅速に量産するためのポリマーの製造検討に関わり、続いて次世代半導体材料の品質改善検討に携わった。まだ分からないことだらけだったが、上司や先輩のおかげで成長することができたと思う。“人を育てる”という日産化学の社風を実感した。

仕事を通して学んだこと

プラントの新設業務でも、通常の製造業務でも、思い通りにいかないことや、トラブルが起こることは、よくあることだ。その時はたいへんだが、振り返ってみると、次に活かすことができており、意義がある。私はトラブルがあっても「経験できてラッキー!」と思うようにしている。

入社後の3年間で、製造プロセスをひと通り理解できたと思った頃、2012年から韓国のNCK(Nissan Chemical Korea)でのプラント建設プロジェクトチームの一員となった。そもそも日本と韓国では、プラント建設に関わる法律が違い、プロジェクトを進める環境がまったく異なる。ベンダー(設備・部品を納入するメーカー)の品質に関する意識や対応についても、両国の間には大きな隔たりがある。こうした前提条件を理解した上でことを進めないと、 工期遅れになりかねない。とても苦戦したが、先輩の仕事ぶりを見ながら、プラント建設を学んでいった。このプロジェクトでは、仕事の進め方、計画性、トラブル対応の3つが学べたと思う。

2016年に再度、NCKでの大規模プラントの立ち上げがあった際には、重要な役割を任せてもらった。私たちは2012年のプロジェクトから経験から得た知見をすべて活かした。通常、ベンダーはプラントエンジニアリング会社が決めるが、任せきりにせず、私たちが事前に徹底的に調べ上げて指定するなど、韓国プロジェクトでフィードバックを行った。建築に関する韓国の厳しい法律へのアジャストも行った。さまざまな事情を踏まえて適切に対応することで、工事は支障なく進み、スケジュール通りにすべて完了した。2012年のプロジェクトでトラブルを乗り越えたことが役に立ったのだ。

私を取り巻く環境

日本企業に就職したとき「3年ほど勉強したら韓国に帰ってもいいし」と考えていたが、日本に腰を据えることになったのは、日産化学での仕事がおもしろかったからだ。“人を育てる社風”にも感謝している。留学生として日本に来て、日産化学に新卒入社した社員は私が初めて。だから、後に続く留学生のロールモデルになりたい。

ところがその先に思わぬ落とし穴が待っていた。半導体の世界はとてつもなく進化が速く、2012年から2016年までの間に、半導体メーカーから求められる材料のスペックも進化していた。2016年のプラント建設では、さらに完成時までの進化も想定してスペックを相当強化しておいたのだが、工場が完成した時に求められた最新のスペックは、まったく違う次元の厳しいものだった。試作したところ、求められる品質をクリアできない。計画通りにつくったにも関わらず、その間の最先端の進化に、製造プロセスの品質が達しなかったのだ。

直ちに改善しなければならない。そこで4機ある設備のうち、まず1機に絞り込み、洗浄工程を徹底的に検証した。開発した先端洗浄方法など、考えうる最もレベルの高い洗浄方法を試してサンプルをつくったところ、ようやく半導体メーカーの承認を得られた。そこで残りの設備も同様な方法で改善に取りかかり、何とかめどがついた。この経験から、最先端を行く顧客のシェアを獲得し続けるためには、先の先まで見通す“先見性”が求められることを痛感した。顧客の要望に応えるだけではなく、顧客よりも先回りしてこそ最先端の品質を実現できる。考え方や仕事の仕方を変えて臨まねばならない。

材料の品質を担保するのは、それを生産する製造プロセスの品質だ。製造プロセスの品質とは、設備の品質であり、その評価力の品質であり、動かす社員の品質でもある。そのために関わる社員たちの力を総合的に結集していく。それも、これからのプロセスエンジニアに求められる仕事だと思う。

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最先端の品質を創り上げるために、
先の先を読み、社員のチカラを結集する。
プロセスエンジニアの仕事も進化していく。