My Never-ending Chemistory

物質解析研究の業務は、社内で開発された物質について、分析を依頼されてスタートすることが多い。といっても、決して受け身の業務だけではない。大切なのは分析結果を解釈し、新たな提案を付加することだ。開発と分析が、独立した別々の業務ではなく、協働して連動することによって、仕事はクリエイティブになり、モノづくりの面白さが激変するとM.K.はいう。

何かあると「なぜ?」と考える子どもだった。蚊取り線香はどうして蚊に効果があるのか。自分が刺されながら蚊を集めてきて煙に当てて実験していた頃の夢は、昆虫博士になることだった。やがて高校時代に水泳で痛めた肩を病院で診てもらい、渡された湿布薬がなぜ炎症に効くのだろうと抱いた興味が、化学系への扉を開いた。

大学院では分析化学を学んだ。従来の手法では測定できない物質を、何とか工夫して分析する方法を編み出す。ターゲットにしたのは極めて微量にしか存在しない生体内の金属イオンだった。金属イオンは生理活性の発現など生体内で重要な役割を果たすとされている。その機能を解明するため、「どのタンパク質に・何の金属イオンが・どの程度結合しているか」という生体内金属イオンの分布を正確に測定する特殊な分離分析法を開発した。機能解明に必要不可欠である分析化学の面白さを知り、好奇心がつきることはなかった。

もっと多様な物質の機能解析に取り組みたい。そのためには研究対象が限定されるアカデミアにいるより、企業で研究職に就くほうが広がりがあるのではないか。そう考えて日産化学の研究所見学に来ると、最新鋭のNMRやMSが複数台も揃うなど設備の充実ぶりに圧倒された。大学レベルでは考えられない装置を駆使して分析に取り組める。そう思うとゾクゾクした。

大学で学んだこと

従来、生体内金属イオンの分布を正確に測定することは非常に難しいとされていた。周辺環境から混入する汚染金属による妨害があるためだ。しかしこの課題を克服した分離分析法を開発し、ヒト血清中の金属イオンの分布の解明に挑戦した。研究は私の修了後も引き継がれており、さまざまな分析に応用されている。

配属先は門外漢の材料分析だった。分析対象となるポリマーについては、まったく知らないに等しい。白紙状態からのスタートに悩み、大学時代の恩師に話すと、「いいんだよ。研究室での学びに新たな学びが加われば、2つの専門を持てる。君の独自性が高まるじゃないか」と励まされて吹っ切れた。

まず取り組んだのは少しでも興味を持てそうな対象を探すこと。日産化学の手掛けている医療材料なら興味が持てる。材料を切り口として、生体に機能を発揮させるメカニズムにひきつけられたのだ。勉強に励み、ポリマー分析のプロセス、手法のコツなどが少しずつ掴めてきた3年目、ようやく大学院で培ってきた知識と新たに学んだ内容が融合し、自分の中で立体的な知恵として立ち上がった感覚があった。

そんなときに与えられたテーマが、生体用のコーティング材料「prevelex®」に関する分析だ。この材料は出来上がりにムラがあり、OKの品質を安定して出せない。にもかかわらず、さまざまな分析にかけても有意差が見つからなかった。考えた末に、大学院で研究していた分離分析法を活用する方法を思いついた。そしてその分析手法をポリマー分析に応用した。上司のアドバイスもあって試したところ、結果は上々。NGとOKの差異が明らかになり、NGの度合いと分析結果に相関関係のあることも突き止めた。材料の開発現場に近いところで分析をするのがおもしろくなってきた。

私を取り巻く環境

気分転換は、3歳から続けている水泳。今も週に1回のペースで練習を続けて、マスターズの大会では優勝することもある。水の中にいると吹っ切れて、仕事での悩みごとが小さなことに思えるから不思議だ。

開発した手法をブラッシュアップした「ポリマーの新規分離分析法」は、prevelex®の品質管理に大きく貢献し、国内外の学会でポスター発表することになった。学会発表を通し、学術的にもユニークな成果であることが確認できた。

ポリマーの機能は、それを構成する物質の構造や配列、組成比などの微細な違いに左右される。次はどんな材料を渡してもらえるのかとワクワクしてくる。材料分析は、材料開発者との共同作業である。開発と分析の中間領域に、実は最終製品の物性を左右するヒントが潜んでいる。それを見つけることに知的好奇心を強く刺激される。私の中ですごく“アツい”領域なのだ。

今後、prevelex®を富山工場で製造することになり、富山工場での品質管理に「ポリマーの新規分離分析法」を使おうという話になっている。研究所の製品を分析していた技術を、富山工場に移管する。それが今取り組んでいるターゲットだ。工場でスケールアップしたときに物性が出なくなることがないよう、誰がどんな状況でもキチンと分析できる状態を創り上げていく必要がある。仕事のスケールが大きく、より多くの人が関わってくる。これも今、私の中でアツいテーマだ。

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分析を通して力を付けたい。
その力を開発に活かして、
人に貢献するモノづくりをしたい。