My Never-ending Chemistory

創薬研究に特化した医薬品メーカーでもある日産化学。その創薬研究には、いくつもの研究部が関わっている。創薬研究では、新しい化合物を生み出す研究だけではなく、多面的な研究が必要だからだ。物質解析研究部の理化学製剤グループも、その一つ。探索研究を経て創出された新規化合物を、薬として開発していく中で、物性評価や品質設計の面で大きな役割を果たしており、数々の分析/解析のスペシャリストが活躍している。その研究の内容と、そこに込める想いについて、N.U.に話を聞いた。

私の所属する物質解析研究部 理化学製剤グループには、さまざまなバックグラウンドを持つ研究員がいる。大まかに分けると多いのは薬学系だが、私は分析化学系出身。農学部の生命化学分野で、フグ毒であるテトロドトキシンの生合成経路の解明を目指して、LC-MSなどを用いて研究をしていた。いつか毒を薬として利用できる日が来ればいいなと思っていた。
就活の時には「好きな分析に携わり、薬を創り出す研究ができたらベストだ」と考えた。そこで、“分析化学”と“薬”の両方を満たせる企業や仕事を探し、日産化学に出会ったのだ。

入社して理化学製剤グループに配属され、分析化学系の私が最初に痛感したのは、薬学分野の知識不足。上司はそんな私の成長を考えてくれたのだろう。私に与えられた最初のテーマは、調査研究だった。ちょうど、低分子医薬品をつくってきた日産化学が中分子医薬品(ペプチド医薬品・核酸医薬品)の研究開発に乗りだそうとする時期であり、理化学製剤グループでもそのための調査を始めることになったのだ。私は、当時の理化学製剤グループには、どんな技術や分析装置があり、中分子医薬品の研究開発には何を活かせて何が足りないのか、今後何が必要になるのか、調べ上げていった。また、製薬の規制・ガイドラインの分析にも取り組んだ。薬をつくる上では、それらを深く理解したうえで研究開発を行うことが必須となるからだ。また、その一環として「過去のテーマで得た知見の活用,ベテラン社員の知識・経験の共有をいかに行うか」といったナレッジマネジメント(知識管理)というテーマでも勉強をし、よりよい研究の環境づくりについても考察した。

このようにして、私の入社1、2年目は、新分野の調査や、環境・仕組みづくりを進めながら、自分に足りなかった薬学の知識を身に付けていく期間となった。具体的な新製品の研究などに比べると地味だと思われるだろうが、私自身は大きな意義と手応えを感じていた。
入社から3年が経つ頃、気が付くと私にはCMC(※)に携わる分析研究員としての力が付いてきていた。“分析化学”のバックグラウンドがある私が、“薬”を学ぶことで、ようやくCMCの世界の入り口に立つことができたのだ。

※CMC(Chemistry, Manufacturing and Control):もともとは新薬申請書類中の、原薬と製剤の化学、製造、分析法の記載のこと。転じて、原薬および製剤の製造研究、品質評価研究などの研究開発全般を幅広く指す用語となっている。

私を取り巻く環境

社外の医薬品の品質を議論するフォーラムなどに積極的に参加している。医薬品メーカーや化学メーカーの約20社から参加者が集まるのだが、見回すと、周囲の年齢は私よりも上であることがほとんどだ。若いうちから最前線に立たせてもらえるのは、日産化学のよいところだと思う。
就活の時、巨大な製薬会社も候補にしていた中で、私が日産化学を選んだのは、規模が大きすぎず、1人の研究員に任される仕事の範囲が広いのではないかと思ったからだ。それは正解だったと思う。

中分子医薬品の研究開発について「こういうテーマが動いている」「こういう化合物ができた」といった具体的な話が研究所内で聞こえてきたのは、私が入社4年目の頃からだった。理化学製剤グループでは、それに合わせて分析機器を導入するなど、体制を整えていった。
たとえば、高分解能LC-MS(液体クロマトグラフィー/質量分析法)による分析がある。中分子医薬品の合成では、低分子医薬品とは方法が異なるために、非常に複雑な不純物ができることが多いのだが、より高分解能なLC-MSを導入することで、不純物が何者なのか、その“顔”が今まで以上によく見えるようになった。また、ペプチド医薬品や核酸医薬品では、アミノ酸や核酸の配列をどうデザインするかがとても重要なため、高分解能の機器によって、それらをより正確に分析できるようになった。
しかし、優れた分析機器さえ揃えば、すぐに優れた分析ができるわけではない。重要なのは、「品質を正しく把握するためにどのように分析・試験をするのか」である。その試験法は、私たちが考え、一から作り上げていかねばならない。ガイドラインや法規制をに従いながら、また対象の化合物の特徴を掴みながらになるため、一つの試験法を開発するだけでも試行錯誤を重ねる必要がある。

一方、研究開発が本格的になるに伴って増えてきたのが、外部の研究者と協働する機会だ。日産化学は創薬研究に特化しているため、それ以降の臨床研究を担当する製薬会社との協業は不可欠。薬の候補となる化合物について、データをやり取りし、ディスカッションを重ねる。そうした場では、創薬研究側の解析担当者として、「協働する研究者をうならせるような優れたデータを出したい」という気持ちで取り組んでいる。
日本では、ペプチドや核酸の中分子医薬品開発は、まさにこれからの分野。ガイドラインもまだ整っておらず、省庁も製薬会社も模索をしている段階だ。そんな状況を変え、研究開発を推し進めていくのは、優れたデータが増えていくことだと私は信じている。中分子医薬品開発という新たな世界に対して、新たな指針を示すことができれば“カッコいい”。そう思っている。

大切にしていること

医薬研究部や合成研究部から、私たちのグループへ「新しい化合物を分析してほしい」という依頼が持ち込まれる際、気を付けているのは、“研究を進めるための解析”をすることだ。
たとえば「この化合物に、どんな不純物ができているか、分析してほしい」という依頼に対して、「こういう不純物で、分子量は○○」と必要な情報を返すだけではなく、「不純物の特徴から考えると、こういう経路で生まれているのではないか」「こうすれば不純物を減らせるのではないか」などと返せるように努めている。そうすることでディスカッションが生まれ、研究が前に進んでいく。そういった姿勢をこれからも持ち続けていきたい。

私が研究に取り組む対象は、近頃では、医薬品開発以外にも新しい広がりを見せている。日産化学は生体材料や化粧品材料などの分野でさまざまな研究開発を進めており、新しい機能を持った製品が生まれている。それに伴って理化学製剤グループが解析をする分野も広がっているからだ。医薬品と化粧品材料は、同じライフサイエンスの分野だが、研究開発の流れはまったく異なるだけに難しい。しかし、新しいモノづくりに参加するのには、大きなやりがいも感じる。多様な新しい研究開発に関わることができるのは、日産化学の特徴の一つだと思う。

今では後輩の研究者も増えてきた。薬学系出身の後輩は、私の場合とは逆で、“薬”の知識はあっても“分析化学”が足りていない。彼らがCMCの研究者へと成長するのをサポートすることも、私の役割の一つになってきている。理化学製剤グループの研究対象の分野が広がり、テーマが増えているため、後輩も、もちろん私も、より力を付けていかなければならないのだ。

このように、研究でも、その環境づくりにおいても、私が関わる案件は思いがけない勢いで増えている。これほどまでに、幅広い仕事に主体的に取り組み、時には上司・先輩に提案することもあるとは、入社前の期待通り、いや期待を大きく上回っている。
そうした環境にいることを、私は今後も活かしていきたいと思う。私は研究において「できない」とは答えたくない。「できない」を、なんとかして「できる」に変えたい。そして、期待に応えるだけではなく、上回りたいと思う。新しい製品の研究開発を推し進めることのできる解析。それができる”カッコいい”研究者でありたいと思っている。

My Never-ending Chemistory

中分子医薬品の
研究開発において、
解析の力で新たな指針を示したい。