My Never-ending Chemistory

農薬開発では、原料となる化合物が完成してからが第二のスタート。製剤という重要なプロセスが待つ。農薬としての有効成分を、界面活性剤、ポリマーなど他の成分と混合、加工して最適な処方を作る。化合物の性能を活かすも殺すも製剤次第と、N.S.はその重要性を語る。

大学院では有機合成をしていた。だが化合物を作ること自体よりも、それをどう製品としてアウトプットするかに興味があり、製剤を志望した。医薬や農薬、化粧品などのメーカーを見に行って「合成をしていたのになぜ製剤?」と聞かれる中、日産化学では「これからの製剤には、さまざまなバックグラウンドを持った研究者の知見が必要だ」と歓迎され、研究所の人たちとディスカッションができた。就活の時点で既に、将来の仕事のイメージが具体的に湧いてきた。

入社後に配属された製剤グループは、初期段階の化合物開発チームと、工場などでの大量生産をターゲットとする本格開発チームに分けられる。私は初期開発チームに入り、殺虫剤をメインテーマとして担当した。
初期段階の開発だからサンプル製作に使える関連情報やデータなどはほとんどない。自分で仮説を立てて実験を行ってデータを出し、その結果を考察して次の仮説を立てる。新人とはいえ自分で考える機会を多くもらえたのは、うれしかった。自分でつくったサンプルを、生物科学研究所で評価してもらうのも楽しく、どんどん仕事にのめり込んでいった。

大学で学んだこと

大学院で専攻した有機化学では、ナノレベル単位で糖を研究していた。グルコースなどの単糖から鎖長や結合位置を制御したオリゴ糖を化学合成することは非常に困難である。そこで生物由来の酵素を触媒に使い、単糖を正確に7個だけつなげたオリゴ糖をつくる研究に取り組んだ。7糖オリゴ糖は植物病原菌に対して高い抵抗性を発揮することが知られており、現在の農薬の仕事に興味を持つきっかけになった。

原体化合物を農薬として製品化する際に、化合物の本来の力を発揮させるためのカギが製剤プロセスだ。界面活性剤、ポリマー、溶剤、キャリアなどを混合、加工して最適な処方を作り、農薬としての性能を安定させる。

日産化学では、その製剤の役割を一歩進め、“製剤によって化合物の性能を底上げする”ことを近年のテーマとしていて、私は今、それを担当している。

水稲用の殺虫剤であれば、実際に水田で使われたときに、原体が力をフルに発揮できるかどうか。例えば原体に“分解しやすい”、“雨で流れてしまいやすい”などの欠点があると、持てる力を発揮できない。私は、1年目で任された原体について、耐雨性を高める調剤に関するスクリーニングを行い、ある化合物を選びだした。これがインパクトの高い効果を出し、市場を大きく獲得する可能性が見えてきた。

今後、世界の市場に向けてより効果の高い農薬をつくろうとするとき、製剤の果たす役割は大きくなっていくだろう。どのような物質を加えれば効果が上がるのか、その結果をどう評価するのか。私も、自分なりにスクリーニングの範囲を変えてみたり、これまで試したことのないような添加物を加えて変化の傾向を掴んだりと、日々試行錯誤を繰り返している。

私を取り巻く環境

昼休みには、よく野球をしている。高校では硬式野球部のピッチャーで、大学の間は離れていたが、物質科学研究所の広いグラウンドで昼休みに楽しそうに野球をしているのを見て、久々に投げるようになった。最高の気分転換になっている。

いま取り組んでいる新規の原体は、期待の殺虫剤として開発が進められている。この原体の製剤検討が始まったのは、私が入社する1年前。その検討者から引き継ぐ形で私が今、海外の幅広いエリアをターゲットとして研究を進めている。より高い殺虫効果を目指すのはもちろんだが、より使いやすく、より多くの収穫量を期待できる剤であるために、取り組むべきテーマは数多い。

とはいえ現時点はまだフェーズ1であり、最終的に上市されるのは、まだまだ先になるだろう。現時点での課題は、まず生物評価を行えるだけの安定した剤をつくること。散布試験を行っても農薬が広がらなかったり、すぐに分解されてしまったりしては試験にならないからだ。早く目標をクリアして、次のフェーズへ到達したいと考えている。

この新規殺虫剤の研究では、生物科学研究所の担当者と協働して実験をしたり、ディスカッションを重ねたりして進めている。次はどうしようかと考察する仕事が今、楽しくて仕方がない。

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新たな製剤を開発できれば、
新たな市場が生まれ、
その分だけ世の中に役立てる。