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Special プロジェクトを追う

水田面積、日本の約20倍!巨大市場 中国へ、期待の新規除草剤を売り込め。

世界人口は急激な増加を続けている。2011年に70億人に到達したといわれ、
21世紀中に100億人を突破するとの予測もある。

人類が必要とする食糧を調達するため、
農薬が果たす役割は、今後ますます大きくなるだろう。

人類の未来には、“安全”で“効果の高い”農薬を開発し、適切に活用することが不可欠なのだ。

水稲用の除草剤「アルテア」は、日産化学が独自に生み出した新薬である。

すぐれた農薬を待っているのは、日本の農家だけではない。

同じ雑草に苦しめられている中国の稲作農家に、
「アルテア」の価値を伝えるプロジェクトがスタートした。

プロジェクトの中心メンバー

石井卓朗
農業化学品事業部 海外部
中国チーム マネジャー
中国生まれ。
日本の大学院に留学し農学博士に。日本に帰化し、中国チームの柱として活躍。
西野泰斗
小林哲也
海外部 中国チーム
(事務系)
海外営業を担当。
若手ながら、中国チームの実務を一手に担い、広大な大地を駆け回る。
堀川雅人
小林弘
生物科学研究所 農薬研究部
除草剤グループ リーダー
除草剤の生物評価を担当する グループのリーダー。
初期開発段階から長く『アルテア』にかかわる。
猿橋康一郎

日韓で高く評価された画期的な除草剤。

『アルテア』は、日産化学工業が見出した水稲用の新規除草剤、次世代のALS(アセト乳酸合成酵素)阻害剤である。物質科学研究所で原体となる化合物が創製され、生物科学研究所との協働作業により長い時間をかけて製品化にこぎつけた。

近年の水稲用除草剤には、いくつかの大きな課題があった。抵抗性を持ち従来の除草剤では防除が難しくなった雑草や、一度防除しても翌年生えてくる多年生雑草に、どう対応するかが問われていたのだ。

『アルテア』は、そうした課題をブレイクスルーできる画期的な新薬として登場した。まず韓国で上市され、優れた効果で高い評価を得た。

日本では混合剤として2013年に『ツインスター』『月光』『銀河』『コメット』の4種類が発売された。発売以降、次世代の高性能基幹剤として普及し、今では多くの農家に使われている。

日韓で評価された新薬は、巨大市場・中国での展開も視野に入れていた。

『アルテア』を基幹材とした製品群
『アルテア』を基幹材とした製品群。その効能はユーザーに高く評価され2016年には日本農薬学会の業績賞(技術)も受賞している。

巨大な中国市場での可能性を探れ!

中国の水稲作付面積は約3,000万haあり、150万ha強の日本の約20倍にも及ぶ。「栽培環境も日本と比較的似ているため、マーケットとしての可能性は当初から考えていました。日本で上市する5年も前から、中国での農薬登録に向けた準備を始めていたのです」と農業化学品事業部 海外部 中国チームのマネジャー石井卓朗は明かす。農薬ビジネスは10年単位で動くのだ。

しかし、栽培環境が近いといっても、気候条件や雑草の種類の違いなど、地域特性には差があり、日本と同じような防除効果を示すとは限らない。中国で上市するには、現地での効能を確認する必要がある。

2010年、生物科学研究所 農薬研究部で除草剤グループを率いる小林弘リーダーが中国に飛んだ。
「海外部が現地で行っている効果試験に対して、状況を確認し、指示やアドバイスを行います。試験結果を日本に持ち帰って分析することもあります」

研究所の仕事は創製や評価だけではない。市場に出て行くまでのマーケティングにも関わっていく。その一つが価格設定のもととなるコスト算出だ。

中国市場で流通する農薬の多くは、日本製の数分の1程度の価格。いくら効果が高くても、価格が販売のネックとなる可能性は高い。どう設定するのかは、マーケティング上、大きなポイントとなる。
「コストを算出するには、どのように製剤し、どれくらいの薬量を使えば、現地で必要な効果が出るのかを正確に掴む必要があります。それも、私たち研究所の役割なのです」と小林はいう。

海外部と研究所は、協力しながら中国市場での可能性を探り続けた。

世界の水田作付面積、上位10カ国と日本

中国市場

小林弘 生物科学研究所 農薬研究部 除草剤グループ リーダー

絞り込まれた展開エリアとターゲット。

海外部や研究所のメンバーは、主要な水田地帯である東北地方から揚子江流域まで、広大な中国を駆け巡った。

当初、中国市場でアルテアのターゲットとして想定していたのは、ノビエや広葉雑草であった。しかし、各地で行われた調査や試験から、揚子江流域ではアルテアの効かない雑草アゼガヤが多く、東北

地方では、雑草ホタルイが問題化し始めている実態が判明した。

ホタルイは、当時すでに日本や韓国でも農家を悩ませていた。除草剤に対する耐性を獲得した個体群が拡大し、いったん残草すると種子によって爆発的に繁殖する“難防除性雑草”だ。アルテアは、そのホタルイに対する効果が認められ、日本や韓国で評価されていた。

小林弘 生物科学研究所 農薬研究部 除草剤グループ リーダー

そうしたレビューを受け、販売を担当する海外部中国チームは、ある方針を立てた。「ノビエや広葉雑草にも効くアルテアですが、あえて増殖中のホタルイに絞り、農家の一番の悩みに応えられる高品質農薬として売り出すことにしました」とメンバーの小林哲也は説明する。さらに「アルテアだけでは対処の難しい揚子江流域は想定市場から外し、まず

は黒竜江省、吉林省、遼寧省の東北3省に集中する戦略をとったのです」

東北3省だけでも、水稲の作付面積は350万ha。日本全体をはるかに上回る広大な市場が待つ。現地調査を重ねる中で、中国へのマーケティング戦略が明確になってきたのである。

生物科学研究所で試験されているホタルイ。
繁殖力が強く農家を悩ませる雑草だ。

中国独特の毒土法とは?

中国市場での期待が高まってきたアルテアだが、他にも解消すべき課題があった。中国独特の農薬散布法への対応だ。

中国では「毒土法」が主流。なんとも強烈な名称だが、農薬を肥料や土と一緒に混ぜて田に入れる方法を、現地ではそう呼ぶ。農家1軒あたりの水田面積が広大な中国ならではの散布法である。日本では、粒剤、フロアブル剤、ジャンボ剤製剤を直接水田に処理する方法が主流。アルテアが毒土法による散布でも効果が出ることを実証しなければならない。

これについて研究所の小林リーダーは「日本の研究所では毒土法へのノウハウがなかったため、中国に渡り、実際の散布状況を調査しました。幸い、アルテアは毒土法でも問題なく効力を発揮することが明らかになり、ゴーサインを出したのです」と語る。

ただし、一点だけ懸念材料が残った。アルテアは水溶解度が高い。そのため、管理状態が悪く水が抜けるような水田では、水と一緒にアルテアも抜けてしまうおそれがある。

「この問題は、我々がしっかりと農家の方々に啓蒙を図り、水田をきちんと管理してもらうよう話をするしかないと覚悟を決めました」(石井)

中国では農薬登録に4年程度の時間を要する。当局による許可が下りたのは2014年10月だった。

このように、海外における農薬の事業では、その地域の特性を十分に情報収集し、研究した上で、農薬を開発することが求められる。海外部、生物科学研究所の努力で、中国の農家に寄り添った新剤の開発が成し遂げられたのである。ここから中国でのアルテア販売作戦が本格的にスタートした。

石井卓朗 農業化学品事業部 海外部 中国チーム マネジャー

広大な大地に販売網を築く。

中国でのマーケティング活動を統括するのは石井である。中国出身で現地の人々の気質を知る石井は、戦略展開にじっくり時間をかけた。

「従来とは異なるタイプの農薬であり、使用法も変わります。その点をしっかりと理解した上で使ってもらわないと思わぬトラブルが起こりかねません。だから、まずは農家に対するセミナーを開催してデモンストレーションを繰り返し、使い方についての周知徹底を図りました。チラシを撒き、各所にポスターを貼るなど、2年間は地道な啓蒙活動に徹する計画を立てたのです」

農家に対する啓蒙同様に重要なのが、代理店政策である。東北3省に限るとはいえ、エリアは広大だ。日産化学は現地法人として日产化学制品(上海)有限公司を持つが、現地スタッフだけでカバーするのは不可能。

石井と小林は、有力代理店とのコネクション作りに奔走した。

「上市前から、代理店向けの説明会を繰り返し行いました。そこでアルテアのポジショニングを説明し、技術資料を配布します。代理店にしっかり理解してもらい、さらに各地の2次代理店への浸透を図ります」

代理店との折衝に、日本から研究所の小林リーダーが駆けつけることもあった。

「代理店の社長と食事をしながら情報交換したり、一緒に水田まで

出向いて現地で技術的なディスカッションを交わしたりしたこともあります。啓蒙活動では、人から人へと情報を伝えることが重要ですから」

アルテアは、現地で以前から流通している除草剤に比べて高価かもしれないが、農家を悩ませているホタルイにたいへん大きな効果がある。そのことを理解してもらいたいという一心で、彼らの活動は続いた。

トラブル発生、成長阻害!?ピンチをチャンスに変えろ!

地道な活動を重ね、認知度が高まるとともに、2015年のシーズンからアルテアを導入する農家も出始めていた。しかし計画通りに進みかけていた矢先の2015年7月、思わぬ報告が飛び込んできた。アルテアを使い始めた農家から「稲が育たない」というクレームが出ているというのだ。

農薬、特に新薬の場合、実際の使用方法や、条件の微妙な違いにより、生育阻害は起こりえる事態ではある。とはいえ、導入初年度に大きな問題となれば、アルテアの販売計画が狂ってしまう。「正直、かなり焦りました」と海外部の小林はいう。

直ちに海外部のスタッフが現地に飛んで状況を確認し、研究所からも小林が馳せ参じた。

彼らは、水田を実地調査し、さらに気象状況や土壌のデータも収集した。それらを総合して分析したところ、原因が分かった。「たまたま数十年に1度の低温に見舞われたために、稲が根を張るのが遅れていたのです。根が十分に育たないうちにアルテアが投入された結果、薬が稲に想定以上に強く作用してしまい、生育阻害が起こったのです」と研究所の小林は説明する。

問題発生後、直ちに石井を中心とする対策チームが、該当農家に対する動きを始めていた。研究チームによって明らかになった原因と今後の対策を説明し、救済措置として成長促進のための資材提供などを申し出た。

「経営陣が素早く英断してくれたおかげで、被害を受けた農家に対して手厚い対応を、時間をかけずに行うことができました。これにより農家が納得してくれただけでなく、結果的には農家に対する当社の真摯な姿勢が口コミで広がっていったのです」と小林哲也は思わぬ成果に言及する。

生育阻害の問題は、根がしっかり張ったことを確認してからアルテアを使うことで解消される。使い方の周知徹底を図ったおかげで、翌年には問題は一切起こらなかった。

研究所の小林は言う。「2015年、問題が起こったときに出向いた農家では、ものすごい剣幕で怒鳴られました。私は中国語がわかりませんが、怒りは十分に伝わりました。ところが、翌年再び同じ農家に状況確認に行くと、笑顔で迎えてくれたのです」ユーザーである農家の笑顔は、研究者にとって、何よりの報いとなったのである。

見学会を開催し、『アルテア』の効果を農家の方々に見てもらう。支持層が少しずつ広がっていく。

シェアアップへ。さらなる貢献へ。

雨降って地固まる。初年度に起こった問題とその解決により、アルテアの使い方に関する懸念は払拭された。さらに一年が経ち、アルテアの効果が実証された。これを受けて2017年、石井は攻めのプロモーションへと転じる。

「中国で事業展開する農薬メーカーは3,000社もあります。トップ企業でもシェアは6%程度に過ぎません。我々としては、まず東北3省でのトップシェアを取りたい」

現地の代理店と協働で広大な大地を駆け巡るのは、小林哲也だ。「よい製品であることには確信を持っています。だから課題はいかに知ってもらうか。

3月から5月のシーズンにかけては、月のうちの半分ぐらいは東北地方に出張しています。現場の生の声をできるだけ拾い上げる中から、次の一手が見えてきますから」と頼もしい。

マネジャーの石井も「小林さんは行動力がある。中国語も上達して私よりうまいぐらい(笑)。安心して任せられる」と目を細める。

費用対効果の高さを武器に、高いシェア獲得を目指すアルテアは、今後、巨大市場中国での存在感を高めていくことだろう。そして、水稲栽培の盛んな他の国々への展開も進められつつある。

世界の食糧生産に日産化学が貢献できることは、限りなく広がっているのだ。