My Never-ending Chemistory

最先端の製品開発を目指して激しい競争が繰り広げられている分野の一つが、環境エネルギー分野だ。T.H.は、入社以来扱っている特別なカーボンナノ材料で、リチウムイオン電池用材料を創出しようとしている。その視点や、想いを聞いた。

私は、入社して以来、ずっと同じ材料を扱っている。それは特別なカーボンナノ材料で、優れた導電性や強度を有するものの、取り扱いが非常に困難なために夢の材料などと言われているものだ。
初期には、透明で電気を通す材料としてITO(酸化インジウムスズ)の代替になり得るのではないか、というテーマで研究開発をしていた。代替になれば、液晶ディスプレイやタッチパネル、有機ELなどさまざまな用途が見込める。しかし、技術競争のなかでITOも進化をとげ、価格も下がってきたところで、残念ながら開発はストップした。

ちょうどその頃、別のチームでリチウムイオン電池の材料を研究しており、私の開発した材料を触ってみたいという話があった。評価をしてもらうと、電極と集電体の間に設けることで電池を高性能化するアンダーコート材料として非常に性能が高く、可能性があるという。私は材料ごと、そのチームに異動して研究を続けることになった。その分野には、すでに先行メーカーがあるが、粒子径の非常に小さな特別なカーボンナノ材料を使うことにより、先行製品よりも劇的に薄い膜を作ることができる。それにより、リチウムイオン電池の高性能化、小型化に貢献できる可能性があるのだ。

大学で学んだこと

階層的自己組織化制御技術を用いたナノ材料創出の研究に取り組んでいた。スタッキング現象を、機能性側鎖により制御することで、導電性ナノワイヤなどの機能性ナノ構造体を創出することに成功した。素晴らしい先生や同期に導かれ、特許を出願したり、数々の論文になったりする研究となった。

リチウムイオン電池は、さらに大きな需要が見込まれることから、世界各国のメーカーが研究している。私はおもに中国のメーカーを担当しており、間に入ってもらっている商社の担当者と一緒に、現地のメーカーへ出かけ、開発者と打ち合わせをすることもある。中国の電池業界には、若い技術者が多く、電池の業界でリーダーシップを取ろうとする高い熱量を感じる。

ただし、製品化へはまだまだたくさんのハードルがある。リチウムイオン電池と一口に言っても、正極・負極・電解質の材料の違いで多種類あり、アンダーコート材料との相性は異なる。また自動車用をはじめさまざまな用途があり、流れる電流の大きさも異なるが、それによっても有効性が違ってくる。現在は、さまざまなメーカーからの引き合いに応じて技術紹介や材料提供を行い、開発・評価を進めている最中だ。少人数のチームに数多くのワークが舞い込んでいるためいそがしいが、大きなやりがいを感じている。

今後、この材料が採用され、実用化が近づいてくるとすれば、中国で生産することも視野にいれなければならない。メーカーの近くでつくることで価格競争力が生まれるからだ。もちろん中国だけではない。電池は、世界中の最先端のデバイスや産業を支える存在だけに、グローバルなモノづくりが当たり前になってくる。究極の目標は、この材料がアメリカでもヨーロッパでも製造するほどのグローバルな製品になることだ。そうした大きな目標を描きながら、目の前の研究開発に邁進したいと思う。

私を取り巻く環境

企業でモノづくりをする以上、利益を上げることが必要だが、継続的に利益を上げるためには、やっぱり顧客メーカーにとってもメリットがあるものをつくり、Win-Winの関係をつくることが大事だと思う。材料科学研究所には、そうした意識でモノづくりをしている人たちが多く、私も大きな影響を受けている。

私は、大学院の研究室の先生に強い影響を受けている。すぐれた研究者であるだけではなく、人間的にも簡単に乗り越えられるような先生ではない。学部では決して熱心な学生ではなかった私が、研究の面白さを知り、先生の論文にも多く名前を連ねさせてもらえた。また、優秀な同期と出会えて今も最高の仲間・ライバルとして付き合いができている。それらはみな、先生に出会ったおかげだ。

就活を始めるときに、会社や仕事を選ぶのは結局、どう生きるか、仕事を通じて何を成し遂げたいかだと考えた。私の場合、仕事を通じてつくったモノが、人の生活を支えたり、感動を与えたりすればうれしい。そんなモノづくりがしたいという視点で会社を探したときに、研究に対してたいへん積極的に投資をしている日産化学に出会い、入社を決めた。ここなら思う存分研究ができ、世の中に広く使われる材料をつくり出せると考えたからだ。

入社直後からのカーボンナノ材料との付き合いが、長くなっている。電池材料として製品化され、研究開発にメドが付いたら、他の用途への研究開発もしてみたい。そちらでも新事業が興せたらいいなと思う。

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世界の産業や人々の生活を支える。
エネルギー分野の
新材料を生み出したい。