My Never-ending Chemistory

先端材料研究部は、その名の通り、最先端の電子材料の研究開発に取り組んでいる。なかでもT.N.が担当するのは、新たなイメージセンサーに関わる材料だ。顧客の要望を的確に掴み、材料メーカーの枠を超える提案で採用を勝ち取る。研究開発からマーケティングまで幅広い視野が要求される業務とは、どのようなものなのか。

大学院では有機合成を研究していたため、仕事は、なんとなく医薬や農薬を考えていた。だが、いざエントリーシートを書く頃になって、自分が本当にやりたい仕事って何だろうと真剣に考えた。医薬・農薬の研究は、一生のうちに一個ものが世に出せたら幸せ、という世界。それもスゴイことだが、自分はもっと身の回りにあるもの、世の中から求められるものを、たくさんつくりたいのではないか、と気づいた。

日産化学を調べてみると、修士課程で学んだ有機合成の知見を活かせる職場であること、顧客と密にコミュニケーションを取りながら材料開発を進める企業であることがわかった。面接では「ウチは医薬も農薬もつくっているが、本当に材料でいいのか」と念押しされた。身近な生活に役立つものをたくさんつくることを望む私にとって、材料開発こそが働きたい仕事場だった。

入社後に任されたのは、望み通り、光通信向け「感光性樹脂」の新規開発だった。そのシーズ探索に始まり、外部機関からの技術導入、実用に向けた改良から製造検討まで一連のプロセスを担当する。とはいえ、感光性樹脂についての知識はまったく持ち合わせていない。そもそも学部時代から修士課程に至るまで、高分子や材料については講義で導入部分を簡単に学習したのみであり、もちろん実際の合成や物性評価などの実験を経験したこともない。さてどうしたものか、と思った。

大学で学んだこと

有機金属錯体を使った新しい合成反応の開発が研究テーマだった。有機金属とは、有機物が化学結合した金属であり、不安定な物質。反応中間体となる有機金属錯体を単離し、その構造解析から反応機構を解明するとともに、新たな有機合成反応へ展開する研究に取り組んでいた。

コンプレックスが成長の原動力となった。材料部門に来ている同期たちは当然のように高分子や材料に精通している。一日でも早く一人前になるために教科書を片っ端から読み漁り、疑問点は人に聞いて回った。関連セミナーがあれば時間をやり繰りして参加した。そうしているうちに、たとえ高分子や材料といえども化学構造によってかたちづくられていることに変わりはなく、要は捉え方の問題だ、と気づいた。眼の前がすっと明るくなった。

その後、担当していた感光性樹脂を新たな用途へ展開することになり、ディスプレイやイメージセンサー向けの用途探索に取りかかる。この頃から顧客へ直接、足を運ぶようになった。顧客の開発者と会って話を聞きニーズを引き出した上で材料を提案する。これがおもしろい。

顧客メーカーを訪ねる際に意識しているのが、相手が抱えていそうな問題について、こちらから話を切り出すこと。そのためには事前のリサーチが肝要で、業界動向をチェックするのは当たり前で、市場調査、レポートなどに目を通し相手の学会発表や特許の申請状況なども調べておく。

さらに顧客の先にいるエンドユーザーや一般消費者の動向も掴んでおきたい。材料メーカーである私たちは直接エンドユーザーや一般消費者に接することはない。だからこそユーザー目線を常に意識するようにしている。「こんなことができるデバイスがほしいな」という素朴な目線が、意外に大事だと考えている。

私を取り巻く環境

顧客は材料メーカーに対して、決してすべての情報を話したりはしない。顧客が内に秘めているニーズにビシッと刺さる提案をできれば、距離が一気に縮まる。顧客の担当者も技術者だから、私たちが提供する材料を使って、よりよい製品をつくりたいと思っている。そこには技術者同士だからこそわかり合える世界がある。

密な関係を構築している顧客と、テーマが進行している最中には、状況に応じて、毎週一度、ウェブ会議システムなどを使って会議を重ねていく。一週間で成果を上げ、研究の報告をするスピードを求められる。時には実験がうまく行かず、報告すべき成果を上げらないままに会議を向かえることもある。そうした難しい状況では、どれだけ前向きでいられるかが勝負だ。“こういう状況だが、こう考えていて、こういう方針で進めていく”と話し、顧客とともにゴールを描くことができるように心がけている。顧客の要求をすべて満たす材料の開発は、簡単なものはないが、良い材料を開発すればその材料が使用された製品が世の中に出る日が来るというワクワク感がある。

仕事の中で何よりやりがいを感じるのは、私たちが提供した材料で、顧客が良い試作結果を得たときだ。特に最近、まったく新しいコンセプトの材料をチームで開発し顧客へ提案した。「この材料のおかげで、こちらの製品づくりの世界が大きく広がりましたよ」と高い評価を得ている。この材料が使用されたイメージセンサーは、うまく行けば数年先に製品化され、世の中をあっといわせることになるかもしれない。

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材料からイノベーションを起こし、
スマホのように生活を変える
製品づくりに貢献したい。