My Never-ending Chemistory

極限まで進化を遂げてきた半導体の世界で、さらなる進化をめざすとき、半導体材料の研究開発はもはや、材料だけではなく、プロセスから発案していく必要がある、とH.T.はいう。生産プロセスや設備の進化までを推測しながら、次世代の、さらに次の世代の製品に採用されるべき材料開発に携わるH.T.に話を聞いた。

私は入社以来ずっと、半導体の微細化に欠かせないカーボン含有量の高いSOC材料(SOC=Spin on Carbon)の研究を担当している。SOCは、集積度が高まる一方の半導体生産の中でも最先端領域で使われる材料だ。ナノ領域での微細なパターンを精密につくるために必須の材料で、カーボン含有率を100%に近づけつつ、汎用溶媒に溶けて、スピンコートで成膜できる材料をつくろうとしている。

従来のやり方では、いくらカーボン含有率を高めようとしても、焼成の加工工程で酸化部位が発生し含有率を大幅に低下させた。そこで発想を転換し、そもそも焼いた時に酸素が入ってこない材料を開発することにした。実験をすると、“なんかこれ普通じゃないぞ”と感じる結果が出始めた。それまでの材料は400℃で焼成すると酸化の影響で必ず固まっていたのに、それは何分焼いても固まらない、つまり酸化していないのではないか。そう気づいた時はゾクゾクした。このことがブレイクスルーにつながり、飛躍的にカーボン含有率を向上させたポリマーとして製品化することができた。今では海外のある半導体メーカーで使われている。

このように、入社後の数年間で、顧客に高く評価される素材を何度か開発することができたが、採用されて製品化されたこともあれば、顧客の製造プロセスに合わず不採用のケースもあった。製造プロセスは極秘事項であるため詳細情報を出してもらえない。私たちは、わずかに開示されている情報を元にプロセスの仕様を推測し、それに適合した開発を行う。相手の発信する情報を的確に読み取り、モノづくり全体へ思いをめぐらすことが成功につながるのだ。

大学で学んだこと

修論は「アミノ酸をモノマーとする精密重縮合の開発」。タンパク質は、わずか20種類のアミノ酸が複雑に連なることによってできている。タンパク質そのものの人工的な再生とまではいかなくとも、狙った長さで、決まったアミノ酸配列の物質をつくる。そんな研究に取り組んでいた。重合制御に関するメカニズムの解明に加え、触媒となる擬ロタキサンの設計と合成に挑戦した。

私たちの仕事は、変数の多い方程式を解くような作業といえるかもしれない。顧客の情報を掴みとり、材料を設計、試作して、品質、製造のスケールアップまで想定して最終コストまで詰めておく。その上で顧客への提案に臨む。自分たちで、何から何まで考えつくす。

入社1年目の頃は、驚いたし、苦労した。「良い材料をつくるためには、そんなところまで考えなきゃならないのか」と。だが、入社2、3年目になれば、海外のメーカーへ行って、資料をプレゼンして、情報をもらってくるという業務を、平気でこなすようになる。意識が変わり、どんどん成長している実感が得られる。それが日産化学の半導体材料研究部なのだ。

ここでは、研究を決して自分の頭の中だけで進めることはない。最先端の半導体は、きわめてスピードが早い分野だ。限られた時間の中で最短かつ最適なルートを見つけるためには、部内で活発にコミュニケーションをとって、メンバーみんなで知恵を出し合っていくことが必要だ。可能性を秘めた材料が出てきたときは、みんなでガッと力を合わせて開発して、顧客からの採用を狙う。スピード感あふれる研究部だと思う。

私を取り巻く環境

朝、研究所に来て、ふと気がついたら夕方になっている。毎日が文字通り“アッという間に”過ぎていく感じ。一つ進むと、次はどうしようかと考えるタイプなので、夜眠る前にはいつも、明日の実験のことを思い浮かべている。でも、そんな日々が楽しい。

現在、取り組んでいるのは、光硬化型のSOC。いかに段差のある基板上でフラットに成膜できるか、がテーマだ。これは、単なる材料開発の枠を超えるような仕事でもある。顧客のメーカーに、半導体の製造プロセスを変えるところから提案をしていくのだ。

まさに最先端材料のさらに次世代のそのひとつ先を見すえた材料開発。これを実現するためには、製造装置メーカーや、最先端半導体の研究機関とのコラボレーションも、欠かせないピースの一つとなる。最終的に顧客の生産ラインの中に、その装置を組み込んでもらってはじめて、我々の材料が使われるのだ。

超一流の材料メーカーがしのぎを削りあう最先端領域は、簡単に勝てる世界ではないと思う。でも、材料を、材料だけではなくプロセスから提案して、つくり方の常識を変えることができれば、他社がつけ入る余地はなくなる。日産化学がトップ企業を凌駕する可能性も十分にある。そこにこの仕事の魅力や醍醐味がある。何年か後に発表される最新鋭のスマートフォンに、自分が手がけた材料が搭載されていることを夢見ながら、私は研究に取り組む。

My Never-ending Chemistory

自分たちの開発した材料を、
世界で使ってもらいたい。
そのためにモノづくりの“何か”を劇的に変える。